いかにしてユールマルはエルマルの制約を打ち破ったのか

 炎の部族の襲撃隊がオーランスの農場を襲ったある日のことだ。これまではとても勇敢であったエルマルが、防壁での戦いに加わろうとしなかった。襲撃者を討たんと“正義の槍”を手に取ることもせず、楯による壁を作るのに“煌く楯”を並べることもせず、追撃せんと自分の足早の馬を駆りもしなかった。そして炎の部族の戦士はというと、この日は彼を恐れる素振りを少しも見せなかった。襲撃者の1人がチャラーナ・アローイを捕らえて奴隷にしようとした時に初めて、エルマルは戦いに飛び込んだ。その輝きはまさに眩しく、見据えることができるものは1人もいなかった。

 しかし炎の部族が追い払われるや、エルマルの光は蝋燭ほどに薄れた。彼は大きな叫びをあげて、大地に崩れ落ちた。仲間たちは彼の下へ駆け集まって、癒し手を呼んだ。しかしエルマルは彼らを止めたのだった。「兄弟」と、涙を浮かべた。「私は今日、決して勝てぬ敵と立ち向かい、そして癒せすことのできぬ傷を受けたのです」

 “雷鳴の兄弟たち”はエルマルをオーランスの大広間へと運び込み、そこで嵐の王は何がおきたのかと聞いた。「これはどうしたというのだ」と尋ねたのだ。「貴様、勇敢なエルマルは幾度も炎の部族と戦ってきた。何故に今回は連中と戦えなかったというのだ?」それにエルマルが説明するには、「ご存知の通り、私はかつては炎の部族の戦士でした。かつての同族の不当な行為のために袂を別ったのでありますが、今受けているこの傷こそがその実例なのです。炎の部族にいた時に、決して土の日には戦わないと誓いを立てさせられました。今や私がとった制約は、病み衰えて死ぬという運命をもたらしたのです」

 その日、オーランスの怒りは大気を震わせた。しかし落ち着きを取り戻してから、彼はこの運命を避ける方法を捜し求めた。ランカー・マイに尋ねたが、この知識の神の図書館では、エルマルが制約を破ったために、今その代償を支払わなくてはならないことが確認されただけであった。フマクトに尋ねたが、フマクトはエルマルのために自分の剣を砥ぐのに忙しく、手伝えなかった。イサリーズに尋ねたが、誓いと交渉することはできなかった。

 以前よりもオーランスは一層腹を立て、ユールマルで苛立ちを晴らした。「エルマルを助けられたらですよ」愚者が尋ねた。「蹴るのを止めてくれますかい?」オーランスは肯いた。ユールマルは立ち上がり、埃を払った。「そうですよ」と彼。「やれるだけやりましょ」

 ユールマルはチャラーナ・アローイの病院へ行った。そこでエルマルが傷つき横たわっているのだ。そしてユールマルは長々と、まずは片目を閉じて観察した。今度は閉じる目を変えて見直した。そして一本足で立ちながら、できうる限りに熟慮を重ねた。「3つ程、エルマル、借りなきゃならないものがあるんですけど」彼は言った。

 ユールマルはエルマルの持つ“煌く楯”を求め、エルマルは貸すことに同意した。

 ユールマルはエルマルの持つ“太陽の灯火”を求めた。エルマルは考え、それから貸すことに同意した。

 ユールマルはエルマルの持つ“正義の槍”を求めた。エルマルはよくよく考え、そして愚者には貸さないことにした。

 「まあ問題ないでしょう」エルマルは肩をすくめられた。「代わりにあたしの棹が丁度使えるでしょうから」そうしてユールマルは“煌く楯”と“太陽の灯火”、それから充分に離れたところからなら“正義の槍”に見えるだろうと考えて、自前の棹を手に取った。彼はまるでエルマルかのように装って、人々に対して、自分がエルマルであるよう扱い、自分のことは「炉の守り」と呼ぶように言い張った。

 土の日が再びやってきた頃には、みんなユールマルには辟易していた。しかし彼は戦士であるかのように防壁に立ち、よそ者がやってくるのを目にすると、走リ込んで自分の棹で打ちかかったのだ。エルマルの制約は騙されて、病ませ殺すためにユールマルの下へやって来た。しかしユールマルはこれを予期していたので、できるだけ速くオーランスの農場の周りを走り始めた。

 ユールマルはウラルダの牧草地の真ん中を走りぬけ、その所為で彼女の牛は驚きの余り鳴き声をあげ、四方八方に散ってしまった。

 彼はリダルダの小牧場の真ん中を走りぬけ、その所為で彼女の駿馬は驚きの余りいななきをあげ、四方八方に散ってしまった。

 それから彼はイズバーンの囲いの真ん中を走りぬけ、その所為で彼女の群れは驚きの余り鳴き声をあげ、四方八方に散ってしまった。

 ユールマルは走り続けて、チャラーナ・アローイの病院にやって来た。エルマルの制約がもう彼を追い回していないのは明らかだった。エルマルは喜びの余りに叫びをあげた。「どういうことです?」そう尋ねた。ユールマルは呼吸を取り戻してから言った。「イズバーンの群れを撒き散らすとですな、連中は四方八方の逃げ惑うもんだから、彼女は外に飛び出して自分の鵞鳥がちょうを呼びもどさにゃあならなかったわけで。キミのアレは混乱して群れに巻き込まれちまった訳で、まあそこに居着いてくれりゃあいいんだけどね」

 みんな笑った。「来てください、ユールマル」エルマルは言った。「“煌く楯”と“太陽の灯火”を返すんです。そしてあなたを祝ってオーランスの広間で何度でも乾杯をしようじゃあありませんか」しかしユールマルは“煌く楯”と“太陽の灯火”を返したくなく、持ち逃げしようとした。エルマルにとって幸いなことに、制約から解放された今彼は元気で力があった。ユールマルを追いかけて、“正義の槍”で彼を討ち、そうして持ち物を取り返したのだ。

 こうしてユールマルはエルマルが立ち向かえなかった敵を退治した。今に至るまで、時折エルマルの信者はこのことを思い出させるために鵞鳥がちょうの羽を自分の髪の毛に飾ることがある。そしてもしトリックスターから何かしら安全に保ちたいのであれば、守るためにそれを鵞鳥がちょうの群れの中に置くべきだ。というのもユールマルの輩どもは、例のアレがいまだにトリックスターを探しておって、鵞鳥がちょうの群れから抜け出した、例のアレを見付やしないか、いつも心配してるのだから。

この文章について

 原文:How Eurmal Defeated Elmal's Geas(http://www.ellechino.demon.co.uk/Myths/elmalgeas.htm)
 著者:Bruce Ferrie(bruce@ellechino.demon.co.uk)
 翻訳者:鮎方髙明(ayukata@dunharrow.org)

 この神話はBruce Ferrie氏が作成した物を、作者本人から許可を受け、鮎方髙明が翻訳した物です。
 これはグローランサ・ファンによる創作物であり、公式版ではありません。各人の選択において使用して下さい。この文章により何らかの害を受けたとしても、著者並びに翻訳者は関知いたしません。この文章は、非営利目的においてのみ、複製が許可されます。
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