いかにしてユールマルは自分の桿を取り返したのか

 

 桿をなくして、ユールマルはそれは大層悲しんでいた。お気に入りの桿であったし、昼下がりの太陽の下で磨いたり、惚れ惚れと眺めるのが大好きだった。しばらくというもの我が身を嘆いてふらつき回っていたもので、“嵐の民”は彼を黙らせようと殴り続けなければならない程だった。しかしそんなことにはユールマルは慣れっこで、何の役にも立たなかった。

 結局のところ、桿を取り返そうとユールマルは心に決めた。問題はバービスター・ゴアがとても恐いということだ。既に桿は奪われてるので、彼女が次に奪う物が何なのか、解りきったことだった。彼は恐怖で身震いし、そしてよくよく考えて、誰かを騙して桿を取り返してもらうしかないかと考えた。

 まずユールマルヴィンガに頼もうと考えた。というのも彼女はいつも自ら進んで、守る術ない人々を助けようとしていたからだ。しかしすぐに、ヴィンガはまだ腹を立てているだろう、と思い出した。二人してアーガン・アーガーと出会った時に、ユールマルが引き起こした窮地に対してだ。だからヴィンガに頼むのは止めることにした。

 彼は次にフマクトに頼もうと考えた。というのも、彼は力強い戦士だからだ。しかしすぐに、フマクトはまだ腹を立てているだろう、と思い出した。ユールマルが“死なる剣”でしでかしたことに対してだ。だからフマクトに頼むのは止めることにした。

 次にユールマルは、オーランスの炉で火に当たり、うたた寝しているインキンに目を向けた。そしてインキンだったら狡猾だからバービスター・ゴアから桿を取り返せるでしょうし、いくら狡猾とはいえあたしにかかれば騙せないものでもないわなと考えた。それに何をしてやりゃあ良いのか充分に解ってた……。

 彼が“方違いの大声”で叫びを上げるや、リダルダは有らぬ方向を見やったので、その間に彼女の馬の尻尾から幾房かの毛を盗み、自分の頭に結わえ付けた。

 彼はオーランスアーナールダの家に行き悪臭を臭わせた。なので他の者たちは立ち去らずにはいられなくなり、その隙にオーランスアーナールダに送ったという奇麗なリネンのドレスを盗み出して、身支度を整えた。

 彼はロイティナを密かに見張って、輝けるエルマルを誘惑しようと踊った“万媚の舞”を真似とった。

 一度これらのものを揃えてしまえば、ユールマルにはインキンを騙せる自身があった。何しろインキンといえば頭じゃなしに、別のナニかで物を考えてると悪評判が高かったからだ。インキンが身支度を整え終わり、お陽さん暖かな一角を見つけようか、それとも食べ物でも探しに行こうかどうしようかとその時に、ユールマルは猫神に会いに行った。そしてインキンは初めて出会うこの不思議な女性に惚けてしまった。

 「キミは?」と、ユールマルに尋ねた。「キミの髪は綺麗で艶やかで、まるで馬のたてがみみたいだね。こっちにおいでよ、話しをしない?」しかしユールマルは軽くいなして、恥ずかしそうにインキンを見て言った。「どうしようかしら」

 「キミのドレスも煌びやかだね。キミの瞳を引き立ててるよ」と、インキン。「こっちにおいでよ、キスでもしない?」しかしユールマルは軽くいなして、恥ずかしそうにインキンを見て言った。「どうしようかしら、あたし……」

 そしてユールマルロイティナの“万媚の舞”を踊ったので、インキンは欲望の余り居ても立ってもいられなくなった。「キミの舞は……、凄いね」と、彼。「こっちにおいでよ、……」しかしユールマルは軽くいなして、こう言った。「どうしようかしら、あたしのために何でもしてくれる?」

 インキンはのぼせきっていたので、すぐにもうなずいた。

 「インキン、あなたのことは知ってるの」と、ユールマル。「みんな言ってるわ。恋人としてのあなたの魅力と技巧のことを」ここに至り、インキンは満足げに喉を鳴らした。「だけどもあたしは思っているの。桿ばっかりはユールマルほど大きくないんじゃないかって。だからねあなたじゃなくって彼を探した方が良いと思うの」インキンの誇りはこの言葉に傷つけられた。「あいつの桿が俺のより大きいなんてありえない! 解ってる奴なら知ってるよ!」しかしユールマルは信じていない振りをして、2つの桿を見比べるまで信じられないとインキンに言った。

 さてインキンは馬鹿ではなかったが、しかしまあ、まだユールマルが美女だと思っていたし、他の男連中同様に、インキンは美人に弱かった。だからバービスター・ゴアのところへ行って、ユールマルの桿をもらってくると請け合った。その間、インキンの帰りを待つために、彼のロッジにユールマルは腰を落ち着けた。

 インキンは“大地の復讐者”が住む大地の暗い割れ目へと歩いていった。まずは彼女に話しかけ誘惑し、そうして騙して桿を巻き上げようと考えた。しかし彼女の血まみれの手を一目見て、彼女の鋭く恐ろしげな斧を一目見て、彼女の目に住まう“死”を一目見て、恐ろしくなってしまった。インキンの小粋な台詞は喉元で死に絶えて、その日一日何も話せなくなってしまった。彼は自分の小屋へと戻ったが、ユールマルはひどく落胆し、インキンユールマルの桿を持ってくるまでは、インキンにキスするどころか触れることさえ嫌がった。

 インキンは再び話せるようになると、“大地の復讐者”の住む大地の暗い穴へと戻っていった。今度はインキンは、大地の寺院に接近している敵なる混沌を見たのだ、と彼女に言った。バービスター・ゴアは自分の斧を手にとって、この敵を捜しに急いで飛び出した。大地に開いた割れ目に入ればユールマルの桿を見つけられると、インキンはその中に飛び込んだ。しかしバービスター・ゴアは自分の斧を飾るためにそいつを使っていたので、出かける時に持って行ってた。インキンは逃げ出し、暫く木に身を隠した。大地に開いた割れ目の中で見た、非常に恐ろしい代物におびえきってしまっために、丸一昼夜も口が聞けなくなってしまった。彼は自分の小屋へと戻ったが、ユールマルはひどく落胆し、インキンユールマルの桿を持ってくるまでは、インキンにキスするどころか触れることさえ嫌がった。

 次にインキンはいくらか時間をかけて考えて、新しい計画を思い付いた。ミンリスターの大麦の貯蔵庫で鼠を捕るのに丸一日を費やす代わりに、醸造師は最近こしらえた良質のウイスキーを幾らか支払った。インキンはこのウイスキーを手にして、大地に開いたバービスター・ゴアの割れ目へと忍び寄った。そこに取り置かれている、倒した敵の血が入り交じったビール樽にウイスキーを皆注ぎ込んだ。バービスター・ゴアがこのビールを飲むや、普段呑んでいたものよりたいそう強かったので、すぐに眠りに落ちた。インキンは忍び入って、彼女の斧からユールマルの桿をほどき取った。そして無くしたことに気づかないよう、森で見つけた石を代わりに結わいだ。それからこの恐るべき戦女神を起こすことがないよう、息を殺してインキンは外へと忍び出て、一目散に逃げ出した。

 インキンユールマルの桿を袋に入れて、バービスター・ゴアの家から外に出た。自分の鋭さに大層満足して、そして自分の桿の方が大きいことを証明してから楽しめる、甘い抱擁を期待した。

 帰り道の途中、リダルダの馬小屋を通りかかるや、そこでリダルダが大層腹を立てていた。立ち止まり、何か悪いことでも、と聞くと、彼女が言うには「ユールマルの阿呆を見ちゃいない? あいつったら叫び声で私を騙して、馬の尻尾から綺麗な毛を盗んでいったの。見つけたら、覚えてらっしゃい」インキンは残された馬の艶やかな尻尾を見て、えらく見慣れた気がするなと思いを抱いた。「しばらくあいつには会ってないけど、気を付けとくよ」そう言ってから、道を進めた。

 道を更に進んで、オーランスアーナールダの家を通りかかるや、そこでアーナールダが大層腹を立てていた。立ち止まり、何か悪いことでも、と聞くと、彼女が言うには「ユールマルの阿呆を見なかった? あれは家の中で酷い臭いをさせておいて、みんなが逃げ出している隙に、煌びやかなリネンのドレスを盗んでいったの。あれは私の瞳を引き立ててくれたし、オーランスが贈ってくれたものなのに。見つけたら、どうしてやろうか」インキンアーナールダがドレスのことを話すのを聞いて、大層えらく聞き慣れた気がするなと思いを抱いた。「しばらくあいつには会ってないけど、気を付けとくよ」そう言ってから、道を進めた。

 自分の小屋のすぐ側まで来て、ロイティナの踊舞台を通りかかるや、そこでロイティナが大層腹を立てていた。立ち止まり、何か悪いことでも、と聞くと、彼女が言うには「ユールマルの阿呆を見てまいせんか? 私を隠れて見張っておいて、“万媚の舞”を真似盗ったのです。見つけたら、どうしてやりましょうか」インキンロイティナが踊りを見せてくれるのを見て、知ってるどころか、と思いを抱いた。「思うに、あいつがどこにいるのか知ってるよ」と、インキン。「俺があいつに目にもの見せてやる!」

 そうしてインキンユールマルの桿を持って帰ってきた。インキンがまだ騙されていると信じているユールマルはそわそわしつつも、どうにかこうにか興奮を抑えて、「桿は持ってきた?」と尋ねると、インキンは肯く。「要る? そうすりゃあ本当に聞いたとおりの大きさなのか確かめられるでしょ?」と喉を鳴らした。ユールマルは慌てて肯き、「ええ、ええ! 桿を私に、さあ頂戴!」

 「ホントにホント?」インキンが尋ね、ユールマルは本当だと言い切った。だからインキンはそいつを渡した。

 その後しばらく、ユールマルはいかれた目をして、奇妙な歩き方をしていたが、それでも桿が戻ってきて幸せだと思ってた。例えインキンが、まったく予期すらしていなかった所に、そいつを突っ込んだとしても、だ。

この文章について

 原文:How Eurmal Got His Stick Back(http://www.ellechino.demon.co.uk/myths/stickback.htm)
 著者:Bruce Ferrie(bruce@ellechino.demon.co.uk)
 翻訳者:鮎方髙明(ayukata@dunharrow.org)

 この神話はBruce Ferrie氏が作成した物を、作者本人から許可を受け、鮎方髙明が翻訳した物です。
 これはグローランサ・ファンによる創作物であり、公式版ではありません。各人の選択において使用して下さい。この文章により何らかの害を受けたとしても、著者並びに翻訳者は関知いたしません。この文章は、非営利目的においてのみ、複製が許可されます。
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